日が変わった夜中から明け方の出来事。
私は夢を見た。
現実とかけ離れた夢ではなく、実際に私が小学校1年生の時に体験した出来事が夢でよみがえってきた。
夢の登場人物は、私が小学1年生の時に担任をして下さっていた
「こごち先生」
がでてきた。
こごち先生は、私達のクラスを2年間担任された後、定年退職された昔ながらの先生だった。
決してお母さんと言える年ではなく、
「知恵袋」
が一杯つまった
「厳しくも心優しい何でも教えてくれるおばあさん」
みたいな存在の先生だった。
先生は戦前の師範学校(教員養成学校)を出たそうで、勉強だけでなく、
「私たちの躾(しつけ)」
にもめっぽう厳しかったが、その裏には親のように深く温かい愛情があった。
私が友達とケンカした時は
「何が原因で何が悪いのか」
「今後どうするのか」
これらを子供同士でとことんデイスカッションさせ、問題が解決して
「お互いが仲直りするまで」
で帰らせてくれなかった。
妥協がなかった。
先生は子供に勝手に話させるのではなく、私たちの側にいて、じっと事の経緯を聴いてくれる
「ジャッジマン役」
に徹して、私たちに対して常に
「考えること」
を体で教えてくれていた。
そんな先生の口癖は
「お茶っ葉もってきなさい」
だった。
家で飲み終わった
「出涸らしの緑茶のお茶っ葉」
これを一体何に使うか?
最初は全く分からなかったが
「習慣」
になるといつもランドセルにいれて持参するようになった。
「お茶っ葉」
の使い道。
実は
「廊下や階段の掃除」
に使うのである。
コンクリートの廊下をホウキで掃けば砂煙が舞う。
水をかけてしまうと砂が泥になってしまう。
「お茶っ葉」
を廊下や階段に撒いてホウキで掃けば水分を含んだお茶っ葉が砂煙をたてることなく砂や汚れを吸収してくれる。
あとはちり取りで集めて捨てるだけ。
「生きる力や生活の知恵袋のイロハ」
これを教えてくれたのが、こごち先生だった。
最近は便利なティーパックになり、お茶っ葉もすっかり存在を潜めるようになった。
夢の回想はまだ続く。
小学校1年生の僕は宿題を自宅に持ってかえる。
ノートに書いた間違いをぶつぶつと独り言を言いながら消しゴムで乱雑に消している。
ふと気がつけば
「お母さん」
が傍に立っているのに気がついた。
「そんな雑に消したら次が書けないでしょう」
お母さんは小言を言いながらも丁寧に消しゴムでノートの文字を消す作業を手伝ってくれた。
「みのる。こうやって消しゴムを使えば鉛筆で書いた文字は消せるの」
「でもね。人の心の傷や人生は消しゴムのように簡単に消すことはできないの。」
「だからね。人には親切にしなさい。優しくしなさい。」
「自分の行動に責任を持って真っ直ぐ生きないとあかんのよ。」
幼き頃の私に
「お母さんが言っていた言葉」
この言葉がリバイバルされ甦ってきた。
「ザーッ」
雨の音で夢から覚めた。
目覚めた私は泣いていた。
懐かしさと温かさで涙が止まらなかった。
人間、繁雑な日常生活を送るがゆえに
「本来持ち続けなければならない心」
この心を忘れがちになってしまう。
夢は自分の深層心理や願望を現すメッセージが込められているとも言われる。
こごち先生もご健在ならゆうに90歳を超えている。
就職が決まってからご挨拶状したきりでもう20年以上御無沙汰している。
先生を探して一度お会いしたくなった。
あまり立ち寄らない実家。
久しぶりにおかんの手料理が食べたくなった。
昨晩から降っていた雨もすっかり止んだようだ。
梅雨も明けいよいよ夏の足音が近づいてくる。
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知恵袋と心の消しゴム。
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